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最高裁判所大法廷 昭和28年(オ)1266号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山本真平の上告理由について。

政府が、自作農創設特別措置法によつて、農地の買収を行う場合において、登記簿上の所有者と真実の所有者と異なるときは、登記簿上の所有者を相手として買収を行うべきでなく、真実の所有者から買収すべきであることは勿論であるが(昭和二八年二月一八日大法廷判決、集七巻二号一五七頁)、同法が我が国自作農の急速かつ広汎な創設を目的とすることに鑑みるときは、これを実施する行政庁が、個々の農地につき一々真実の所有者を探求して、農地計画を樹立遂行することは、極めて困難であつて、公簿上の記載が、一応真実に合するとの推定の下に、その記載に従つて所有者を認定し買収計画を定め、かつこれに基き買収をなすことは行政の事務処理上やむを得ない措置というべきである。従つて上告人の前主である登記簿上の所有者に対しなした本件のような買収処分を当然無効ということはできない。真実の所有者は買収計画又は買収処分に対し、同法所定の期間内にその変更又は取消を求め得るに過ぎないものであつて、その所有者がかかる不服申立をなすことなく、その期間を徒過した場合は、農地買収処分はここに有効に確定し、当該農地は国の所有に帰属して、もはやこれを争うことはできないものと解するを相当とする。けだし同法が買収計画に対する異議の申立、訴願及びこれらの決定、裁決が短期間に行わるべきことや、同法による行政処分の取消変更を求める訴が特に短期間の出訴期間を定めたことは、右処分に関する争訟をなるべく速やかに解決し、自作農の創設を急速に実現しようとする意図に出でたものと解すべきだからである。従つて上告人が前叙のような不服申立によつて処分の取消を求むる手段に出ずることなく、該処分の当然無効を主張する本訴は理由なきに帰し、これと同趣旨に出でた原判決は正当であつて、所論は採るを得ない。又本件の買収処分が有効に確定したものである以上、その買収処分は対価支払の義務を伴うものであるから、所論違憲の主張も理由がない。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官真野毅の補足意見を除き裁判官一致の意見により主文のとおり判決する。

裁判官真野毅の補足意見は、次のとおりである。

私は多数意見に賛成である。なおその詳細については、昭和二五年(オ)四一六号同二八年二月一八日大法廷判決〔集七巻二号一五七頁〕記載の私の補足意見と同趣旨を附加する。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 入江俊郎 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一)

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